2012年3月28日水曜日

月刊 現代農業2011年12月号 夜温11度のぶっ飛び変温管理でバラの燃料半分以下


『メリハリ加温で暖房代浮き浮き計画』コーナーより

宮崎・矢野正美

 久しぶりにペンを執りました。

 前回『現代農業』に書いたのは、平成16年11月号、「露点温度を知れば百人力 極端に減ったバラのベト病・ウドンコ病」。バラが結露しないよう、露点温度表(ハウスの気温が下がると何度で結露するかわかる表)を使って暖房機のセット温度を決める管理についてでした。

 現在も露点温度は意識しているものの、やっていることはそれをはるかに通り越し、レッドゾーンともいうべき低温まで落とす変温管理です。それでもバラの花は毎日咲き続けてくれています。

 重油の高騰がなかったら、この変温管理にはたぶん挑戦しなかったと思います。そしてバラという作物がここまで低温への適応性を発揮することもわからなかったでしょう。

 コストを下げることが、この厳しい状況を乗り越えさせてくれると信じています。やるかやらないかは別として、一読してみてください。何かのヒントになれば幸いです。

 経営とは続けること。お客様に喜んでもらうこと。止めてしまえば成長も何もありません。

1100坪で栽培、直販が主体

 わが家は、ガラス温室300坪、シックスライトアーチ型200坪が2棟と230坪が1棟、ビニールハウスアーチ型100坪が2棟、計1130坪でバラを栽培しています。暖房機(重油温風機)が計6台。ハウス内カーテンは手動によるドラム式二軸二層(PO1枚、ラブシート1枚)。その中で20品種のバラを毎日、周年で採花しています。

 経営の主体は自己販売(直販)で、近所のおばちゃんから、地元の、そして全国のお客様からの注文に応じて、花束やアレンジメントを配達したり、宅配便で送らせてもらっています。

 栽培は相も変わらず土耕です。有機物(草と落ち葉)と納豆菌米ヌカボカシで、かれこれ30年になります。後ほど書きますが、この土で栽培すればこそ、今回の変温管理が可能になったのではないかと思っています。


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変温管理とは?

果菜類や花き類で行なわれている一般的な変温管理は、

(1)日没から夜中まで(前夜半)

 ……転流に必要な温度(バラの場合は16〜18度)を確保

(2)夜中から日の出まで(後夜半)

 ……転流は終わっているので、温度を2〜3度下げても収量等には影響が少ない。

温度を下げると呼吸による消耗を減らすことにもつながる。

平成18年〜19年・重油急騰
初めての変温管理で重油4割カット

 平成16年、17年のわが家の重油使用量は、75キロリットル、78キロリットルと、かなりの量を消費していました。なにせ暖房機のセット温度はずっと18度。バラは18度以上ないと花芽を持たないとか、花色がくすむなどといわれていたからです。

 それが平成18年には、重油価格が一挙に20円/リットル値上がり、経営を圧迫し始めたのです。360万円の重油代は20円高くなると520万円にアップします。なかなか簡単に支払える金額ではありません。そこで逆に、支払える燃料代の上限を400万円と決めると、焚ける重油は約60キロリットル。変温管理で重油を減らすことを考えました。

 その年の暮れまでは、セット温度を16〜18度にしてちゃんと採花し、明けて1月から極寒期の2月の下旬に、いよいよ変温を開始しました。夕方は16度にセット(転流のため、夕方〜暗くなって3時間は温度を下げない)。1月は乾燥していますので16度なら結露の心配はありません。それを夜10時頃より2度下げて14度。今度は露点温度に突入しますが、循環扇と暖房機の送風モードでハウスの中の空気を動かし続けて極力結露させません。さらにもう一回、夜中の2時〜3時頃にあと2度下げて12度にします。3月からは需要期なので、また14〜16度で運転します。こんなふうに探り探りの変温管理でしたが、その年の重油の使用量は50.73キロリットル。計画使用料を下回り、重油代も300万円ほどですみました。


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平成19年〜20年・大寒波
葉面散布で助けながら最低夜温11度

 次の年の重油はさらに高騰し1リットル70円。変温管理をもう一歩進めようと考えました。ただセット温度を下げると、植物にはかなりのストレスになるようです。到花日数は若干長くなり、採花量が少なくなります。

 温度と植物の生育について調べていると、「植物にとって低温はストレスであり、あまり好ましい状態ではないが、植物は低温に対して適応していくことができる。適応させていくには、徐々に低温に慣れさせる必要がある。また葉面散布は、順化を手助けする可能性がある」という記述をみつけました。もう少し低温でも大丈夫なように思え、どこまで低温でいけるか、バラの能力を知りたくなりました。

 しかしこの年は、12月に大寒波が襲来。12月だけでも霧島連山に3回降雪し、朝の最低気温が連日マイナス4度前後。さすがに油の減りが激しかったので、12月より毎夜16度→15度→13度→11度と変温しました。その代わり日中に酢1000倍とみりん1000倍を、反当200リットルずつ5〜6日間隔で葉面散布し、同化作用の促進や糖の補給をしました。その結果、採花量は少し落ちましたが、販売分は毎日確保できたのです。年明けての1月も、度重なる寒波襲来で毎夜15度→13度→11度に変温。ただし雨天時は微妙に暖かいので、11度にセットすると暖房機があまり反応しません。湿度が抜けずに病気が懸念されますので、少し上げて14〜15度にしました。

 この年の重油使用量は、前年より約4キロリットル減って46.3キロリットル。重油単価が上がった分もあり、310万円でした。

 その後も変温管理を続け、平成20年には44キロリットル、平成21年には35キロリットル、平成22年には37.5キロリットルと、ほぼ一定の値になっています。


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多段サーモは使わない

 じつは私は暖房機についている多段サーモを使っていません。冬期は毎晩、変温の時刻に必ずハウスに入って、自分の目と肌で温度と湿度を確かめています。毎晩ハウスに入ると、感覚と勘が「このくらいなら大丈夫」「今夜はもう一度セットを上げておこう」「今日はかん水したので、このハウスだけは下げないでおこう」などの微調整にも気づきが出てきます。環境やバラの様子は毎日違います。機械的に決まった温度にパンパンと切り替わることがいいとは思えません。お客さんから預かっている大切なバラですから、神経を研ぎ澄ませて、私の責任で温度を決めています。

 バラづくりを始めようとした年、オイルショックがありました。重油が1リットル100円に跳ね上がり、鉄工所で作ってもらった薪ストーブを使いました。冬の夜中2時間おきに薪をくべることが私のバラづくりの出発点。あの頃のことを思えば、バラのために夜中に起きることは苦になりません。

 もう一つ意外な発見は土の力です。ハウスの土の上に直接座ってみると、じわっと尻が温かいのです。それもそのはず、真冬でも地温は18度を保っているのです。地上部の気温は夜間10度〜日中30度の変化の中にあっても、根っこは18度で一定。案外冬期の18度は温かいものですよね。この土に助けられています。

わが家の変温管理のポイント

(1)年の暮れまでは無理な変温はしない(需要期はしっかり焚く)

(2)夕方〜日没後最低3時間は温かく(16度)して転流させる

(3)1月から徐々にセット温度を下げ、低温に対して十分適応できるように順化させる

(4)雨天時は無理に下げない

(5)葉面散布をして、植物に糖や有機酸を補って手助けをしてあげる

もちろん地域や、ハウスの形状、作目、品種、栽培方法などで条件がかなり違いますから、このやり方がどこでも通じるとは思いません。


今年は8度に挑戦します!

 秋の紅葉は気温が8度になってから始まると聞いたことがあります。今年はなんとか8度に挑戦してみようと考えています。まずは100坪のハウスで、葉面散布の資材に一工夫も二工夫もしてトライしてみます。もちろん側面内張りの多層化や、カーテンも省エネ資材に随時取り替えることで、少しでも温かく保つことにも取り組みながら。

 変温管理の挑戦は、小さな一歩がいくつも重なり、成果となり、自信も出てきて、それが楽しみに変わってきました。今年はまた大きな壁に直面していますが、これを乗り越えた時になにが見えてくるのか楽しみです。

 私は、どんなに世の中が複雑になっても、花で幸せにできると信じています。バラは誰が見ても美しいものです。癒されます。心豊かにしてくれます。様々な魅力や効用がたくさんあり、私たちの生活の中に欠かせないものになっています。こんな素晴らしい花を、工夫と土の力で咲かせ続けていきます。

(宮崎県都城市)

この記事の掲載号

現代農業 2011年12月号

特集:燃料自給 なんでも薪に!
薪販売に燃える/ぜいたく燃やす日々/燃やすコツ/ハウスの暖房代減らしに/母ちゃんが米を売る/メリハリ加温で暖房代節約/「我ら果樹産地を引き継ぐ」せん定集団/わくわく燻製づくり/集落営農の経営を考える(機械代編) ほか。 [本を詳しく見る]

 



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